SUMMIT 2021

2021年度日本山岳遺産認定地を紹介します

2021年度日本山岳遺産認定地を紹介します


例年2月に開催していた日本山岳遺産サミットでは、新たな日本山岳遺産の紹介や前年度の当基金の活動報告を行ってきました。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行がいまだ収束の気配が見えないため、昨年度に引き続き今年度も日本山岳遺産サミットの開催は見送ることとしました。代わりに本特設ページにて2021年度に新たに認定された3つの日本山岳遺産を、そこで活動する団体のQ&Aとともに紹介いたします。

2021年度日本山岳遺産認定地
山名・地名 都道府県 認定団体 主たる活動
竜ヶ岳 三重県 竜ヶ岳自然環境保全推進委員会・竜ヶ岳登山道整備の会 環境保全を前提とした登山道整備
京都北山 芦生の森 京都府 一般社団法人 芦生もりびと協会 森林整備と生態系維持に関する啓発活動
鉾岳 宮崎県 フォレスト・マントル上鹿川 森林保全やその自然を活用した地域活性化の活動

 


日本山岳遺産基金会長・川崎深雪よりご挨拶


まもなく13年目の活動を迎える日本山岳遺産基金への温かいご支援にこの場を借りて御礼申し上げます。感染症収束への出口が依然はっきりと見えないなか、今年度も日本山岳遺産認定地を発表する日本山岳遺産サミットの開催を見合わせることといたしました。

皆様との交流の機会が失われることはきわめて残念ではありますが、より多くの方と各団体様の横顔を共有できるよう特設ページを設けました。今年は、各認定地団体様の活動への理解を一層深められるよう、Q&A方式にてご紹介させていただいておりますのでどうぞご覧ください。

いまだ行動が制限されるなかにおいて、あらゆる工夫により日々懸命に地元の山を守る活動を続けておられる方々にあらためて敬意を表します。こうした活動によって日本の美しい山岳環境、そして登山文化は次代へと受け継がれていきます。その輪がさらに広がることを願いつつ、引き続き日本山岳遺産基金へのご協力、ご支援のほどかさねてお願い申し上げます。

 


2021年度日本山岳遺産認定地の紹介

 竜ヶ岳(三重県)

竜ヶ岳は鈴鹿国定公園に指定される鈴鹿山脈の中ほどに位置しています。標高1099.6mの低山ながら900m付近で森林限界となり、山頂付近はササの草原とシロヤシオの樹木のみが植生する特異で開放的な景観が広がります。一方、麓の宇賀渓には奥深い谷が形成され、年間を通じて親しめる多様な自然環境を有しています。登山道周辺には絶滅危惧種Ⅱ類の植生もあります。宇賀渓にはかつて行商人が滋賀県と往来する宿場が形成され、また山麓は炭焼きで生計を立ててきた歴史をもっています。「鈴鹿セブンマウンテン」の一山です。

写真は、宇賀渓の源頭蛇谷より望む初夏の竜ヶ岳(1枚目)、モルゲンロートで元旦を迎えた竜ヶ岳(2枚目)。

 

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竜ヶ岳自然環境保全推進委員会/竜ヶ岳登山道整備の会 Q&A

2011年4月、竜ヶ岳の登山道で起きた事故をきっかけに、安全な登山道を目指して危険箇所の点検整備を目的にボランティアを申し出て、活動を開始しました。2017年4月、竜ヶ岳の自然環境を後年に引き継ぐため、地元の有識者や自治体と連携し、持続可能な団体「竜ヶ岳登山道整備の会」を設立しました。

正会員が9名、ボランティアが29名の計38名。公務員、会社員、自営業、学生など、職業も年齢もさまざまですが、竜ヶ岳に登り、竜ヶ岳の自然や景観に魅了された人たちの集まりです。知人の紹介や当会HPからの応募で整備に参加しています。写真は、荒廃した登山道の閉鎖区間で環境整備を行っているときのもの。

・登山道の点検整備。竜ヶ岳には4本の登山道があり年間計画を立てて実施
・登山道整備を行うための事前調査、環境アセスメントを実施
・安全対策、道迷い防止対策、ロープ鎖など経年劣化箇所の点検と更新
・希少植物の植生保護区画を設置して定期点検と環境整備を実施
・登山道の崩壊箇所調査を行い迂回路を設置して崩壊箇所の整備を実施
・安全な整備を行うための機材取り扱い講習会。整備時に随時
・安全な登山を行うための登山講習会。ロープワークやセルフレスキュー(年5回)
・都府県の登山道整備状況の視察と交流会を開催(年1回)
・地元自治体や土地所有者の森林組合と交流や意見交換など
すべての活動を合わせると、月3、4回、年間で45回ほど活動しています。

写真は、遠い森林から整備箇所まで倒木を運び上げているときのようす。

整備をしたことが結果としてよい方向に現れ、メンバーに達成感を感じてもらえたり、活動を通して交流を深めることで、本来の登山も見方が変わり、より楽しんでもらえたりすることがうれしいです。
また、ボランティア募集の案内より先に日程調整をしてくれるボランティアメンバーが出てきて、登山道整備に主体的な行動が芽生えてきたことが活動していてよかったと思うことです。

地元貢献型の団体を目指していますが、登山道整備に対しての認識不足や対話が行き届かず、活動への理解が得られない時があり、歯がゆさを感じたことがあります。
また、長期間の整備活動を行った場所が、集中豪雨によって数日のうちに荒廃したり、自然の力に対して施策が有効に機能しなかったことなどです。

コロナ禍でアウトドアブームが後押しとなり、登山者が急激に増えたことで登山道の荒廃が増しています。荒廃するスピードに手を打つためには短期間で整備する必要がありますが、資金不足から手が出せずにいました。助成金を活用して竜ヶ岳の最上部より整備を行い、中腹部への荒廃に歯止めをかける計画です。

日本の登山道整備はボランティアによって活動が支えられていますが、欧米、特に欧州では整備自体が事業として成り立っているところもあります。日本の登山道を抱える山岳地域では、国や地方自治体、民間の私有地関係者で運営されてきた経緯があり、土地の利用や整備に対して、登山者が安易に踏み込むことができない領域となっています。
昨今の登山ブームで登山道整備に登山者の関心が向いたことはよいと感じていますが、整備を行う母体が曖昧であったり、資金不足や地域社会と連携ができていないなどの課題があります。このままでは将来的にボランティア活動の衰退が起こり、整備が行き届かずに登山道の荒廃が進行する状況になりかねません。これは登山道を抱える地域の全国的な問題だと認識しています。
人間が自然の中で過ごし癒されるのであれば、自ずと自然環境を維持・保全する責務があると考えます。また、そうしなければ次世代までその自然を残すことはできないでしょう。
新たに取り組みたい活動は、ボランティア主体による登山道整備ではなく、持続可能な環境保全団体を設立して、いつでもボランティアが参加し活動できる社会環境の整備です。さらにはその団体を次世代へ引き継ぐことです。私たち登山者が楽しみ癒される環境が次世代に残るのであれば、今、自身が思考し、それを形にするためにもがき苦しむのも、私たちの楽しみになります。

 竜ヶ岳 登山道整備の会HP
 https://www.suzuka-7mt-ryugatake.com/

 


京都北山・芦生の森

芦生の森は京都府の北東部、由良川の源流に位置し、福井県と滋賀県に接しています。関西屈指の自然林が残る約4,200haの森は海抜355メートルから959メートル(三国岳)に至ります。その約半分は人の手が加えられていない天然林。この天然林の中には、森林の成立以降大きな人為が殆ど加わっていないと考えられる原生的な部分も含まれています。標高600m付近まではコナラや常緑広葉樹であるウラジロガシ、ソヨゴなどの暖温帯林構成種が見られます。それ以上の標高ではブナ、ミズナラを主体とした冷温帯林構成種が生育します。

気候区分としては、日本海型と太平洋型の移行帯に位置することから非常に豊かな生態系が形成されています。木本類243種、草本類532種、シダ類85種が確認されています。写真は、カツラの巨木と芦生の森の風景(1枚目)。

 

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一般社団法人 芦生もりびと協会 Q&A

2015年3月に、以前より芦生の森で活動していた4団体(芦生山の家、自然文化村[現美山ふるさと株式会社]、針畑活性化組合、芦生自然学校)と、京都大学芦生研究林が共同して、組織づくりを目指した協議を始めました。原生的な森へと回復させ、ユニークな生態系を維持させようと、適正な利用を図るためのガイドラインや、管理方法を持続的に実施していこうと考えました。
2017年には任意団体「芦生もりびと協会」が、2018年3月には一般社団法人として当協会が設立されました。

芦生の森でガイドツアーを行う4団体が会員として構成されています。現在、当該地域で活躍する認定ガイドは16名です。

・認定ガイド研修会および新規ガイド認定講座の開催 / 年4、5回程度
・山域に関する勉強会の開催(京都大学芦生研究林から情報提供)/ 年2回程度
・市民や地元小中学校向けのガイドツアー(普及啓発活動)/ 年間5回程度
・そのほか、ルート整備の実施、山域の教材開発・啓発資料の策定、京都大学芦生研究林との山域保全、普及啓発活動に関する検討、京都丹波高原国定公園ビジターセンターへの情報提供など / 随時実施

子どもたちや市民の方、芦生の森の来訪者の方と共に、森の今を共有し分かちあうことです。写真はトチの巨木をガイドする。

鹿の食害により、芦生の森がかつての姿とは大きく変化したことを受け止めながらも、これからの未来に向けて豊かな森の価値を伝えていくこと。 ガイドの高齢化による芦生の森に関する知識とガイド技術の継承です。

芦生の森の現状に関する普及啓発を目的に、冊子の作成やガイドツアーの実施をしたり、環境への負荷を軽減するための整備を予定しています。

新しいガイドの養成や、奥山に残る自然とともにある暮らしや文化に関する伝承や技能に関するガイドツアーの開発です。

 一般社団法人 芦生もりびと協会HP
 https://ashiu-moribito.jp/

 


鉾岳

鉾岳(ほこだけ・1277m)は、宮崎県北部に位置する上鹿川を取り巻く大崩山系に属します。急峻な地形で温暖帯から冷温帯までが垂直的に存在し、険しい山間を蛇行するV字谷には瀑布、甌穴などが展開します。変化に富んだ渓谷が、花崗岩の岩肌や自然林と調和し美しい景観を作り出します。

急峻な地形ゆえに森林施業などの生産活動の場となり難く、結果として、原生的な自然林がまとまって生育している数少ない地域のひとつとなっています。 宮崎県延岡市固有種の天然杉やツチビノキなどの環境省レッドデータ記載種が生育・生息しています。

写真は、大崩山系の展望と山岳信仰の対象とされてきた鉾岳(1枚目)、保護活動がされている天然巨大杉の「鬼の目杉」(2枚目)、宮崎県鉾岳・鬼の目山のみ生育する希少植物「ツチビノキ」(3枚目)。

 

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フォレスト・マントル上鹿川 Q&A

1984年、宮崎県の調査研究により、シカの食害が原因で天然杉群落や貴重な生物群が天然更新(※)できていないことが発見されました。これを危惧し、宮崎北部森林管理署と「多様な活動の森」協定を締結、パッチデイフェンス方式のシカネットの設置・見回り・補修を実施していました。
2013年4月1日、この素晴らしい森林自然環境を次世代・未来へ繋ぐことを目的に、森林・山村多面的機能発揮対策交付金を活用して「フォレスト・マントル上鹿川」を設立しました。母体は、2008年9月、「地域の森林は地域で守り育てよう」を合言葉に、地域森林保全・地域振興を目的として設立された「延岡チェンソーアートレンジャー部隊」です。
一般のボランティア団体では困難な国有林内の保全活動や民有林の保全活動を、地域住民に広く普及させることも目的のひとつでした。リングダイク(※)の周辺から上昇した火成岩の内側が落ち込み、カルデラ化してできた地形的特徴の尖峰と渓谷が生み出す山岳地形の素晴らしさを、森林保全活動を通じて、あたりまえに暮らす上鹿川住民にも、宝物だと再認識してほしいという思いがありました。

※天然更新・・・森林の伐採後において、植栽を行わず、自然に落下した種子から樹木を育成させることで再生を図る方法。
※リングダイク・・・花崗班岩の環状岩脈

全体で23名です。そのうち地域住民の会員が13名。地域住民の会員の平均年齢は高く、地域外会員は若い方が多い傾向にあります。企業と森林保全活動協定を結んでいて、企業主宰で森を楽しんでいる(登山・渓流釣り・木育など)方々との森林保全活動も実施しています。

鉾岳・鬼の目山周辺の森林が活動の中心ではありますが、上鹿川を取り巻く山々10山ので下記の活動を実施しています。

主な活動内容 年間活動回数 参加人数 参加メンバーなど備考
森林保全活動
・シカネット資材搬入
・シカネット設置
・シカネット見回り
全10回 27名 会員・ボランティア・宮崎北部森林管理署会員
登山道・林道整備 6回 18名 会員
植生調査 1回 6名 会員・植物専門家
森林観察会 2回 48名 会主催・他団体協働
木育・森林環境教育 2回 67名 会主催・他団体協働
森林資源活用事業メイプルシロップづくり 1月~3月 150名(延人数) 作業・体験交流会

1984年に発見された天然杉群の森林に、シカネットを設置しています。その成果が天然更新の推移で見られると、活動を継続して良かったと、うれしく思います。 また、会員の仲間達やボランティアの皆さんと、森林保全活動や林道・登山道整備を行って同じ汗を流した後に、未来の森林を想像し、話が盛り上がる昼食時が楽しいひとときです。

設置したシカネットの奥と手前で林床の違いがみられる

活動することに大変だとか、苦労と感じることはあまりありませんが、シカネットの資材を現地へ人力で搬入する時は、「苦しい楽しい」ですね。
また、地域会員の高齢化が進む中、この活動を持続可能な活動として、次世代へ繋ぐための人材育成に苦労していますが、徐々に若者の協力も増えてきています。

今回の助成金は、地域上鹿川を取り巻く、鬼の目山・鉾岳など10山の紹介や、登山道をはじめ地域の活動や文化などを記載したマップを制作します。

森林資源活用の活動として、山麓のイタヤカエデからメープルシロップの製造・販売も行っている

上鹿川を取り巻く10山を縦走するコース整備を進めています。しかし活動は大変です。山を楽しむ方々と共に、森林整備やコース整備を協働で実施し、楽しみながら、次世代・未来へ豊かで美しい森林を繋げたいです。

 フォレスト・マントル上鹿川HP
 https://forest-mantle.com/

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