山のマナー ―― 山のマナー向上のための13ヶ条 ――

当基金の啓蒙活動の一環として、月刊誌『山と溪谷』(2012年8月)に「山のマナー向上」をテーマに特別記事を掲載しました。
ここではみなさんに守ってもらいたい、13のマナーをまとめました。登山をされる際には、必ず守って、安全に山を楽しみましょう。
登山マナー1 自立した登山者として、必ず山岳保険に入る

登山者は誰でも遭難事故を起こす可能性がある。必ず山岳保険に入っておこう

 自立した登山者とは、登山技術はもとより、自ら判断し、行動し、いかなるときも家族や他人に迷惑をかけない登山者だ。

 登山中に不幸にも遭難してしまったとき、捜索・救助費用をカバーしてくれる「山岳保険」に加入するのが、自立した登山者の第一歩である。経験を積み、技術を身につけるには相応の時間がかかるが、山岳保険への加入は、今すぐできるはずだ。

 山岳保険を取り扱う保険会社は、登山形態を「ハイキング・軽登山」と「山岳登攀」に分けている。前者は雪のない一般登山道だけを歩くもので、後者は、雪山登山や、一般登山道以外のルートを含むものとなる。両者の線引きは保険会社によっても異なり、また補償額や補償内容もさまざま存在する。保険会社に問い合わせ、自身の登山形態をカバーする保険に入ろう。

登山マナー2 登山計画を周囲に伝え、登山届を提出しておく

上高地の登山届提出箱。登山届用紙や鉛筆も用意されている(瀧渡尚樹=写真)

 遭難したが、周囲に誰もいないし携帯も通じない・・・。そんなとき、生死を分けるポイントは、誰かに登山計画を伝えたか、登山届を提出したかにある。つまり、誰かが遭難に気づき、アクションを起こす。これが重要なのだ。

 家族や知人に登山計画を伝えておき、下山予定時間(日)を過ぎても帰宅(出社)しなければ、誰かが捜索依頼を出してくれるだろう。

 登山届については、警察が捜索依頼を受けたとき、登山届(計画書)があれば捜索すべき範囲を特定しやすく、結果として救助される可能性が高まる。登山届の内容が詳しければ詳しいほど、捜索の手がかりはより多くなる。

 登山届は、登山口のポストに投函するか、管轄する警察署へ郵送やFAXで提出してもいい。インターネットや携帯サイトから受け付けているところもある。

登山マナー3 公共交通機関を使った移動の際の注意点

状況を見てザックの置き場所を選ぶ。混雑してきたら網棚や足元、通路脇へ(鈴木千佳=写真)

 公共交通機関を使って移動する際は、周囲に気を配り、迷惑にならないように。

 大きなザックはそれだけで場所を取る。車内の混雑状況を見ながら、網棚など、ほかの乗客のじゃまにならない場所へ置こう。ストックをザックの外側にストラップで固定したままで電車やバスに乗っている人を見かけるが、これは危険だ。ストックはザック内に収納するか、手に持って乗車する。もちろん、石突きにはキャップをつける。

 帰りの電車やバス内で、座席の右端から左端まで陣取り、大きな声で反省会をするのもマナー違反。言うまでもないが、飲酒して宴会を始めるのもNGだ。

 また帰路は、汚れた衣類などをきちんと収納し、においにも注意するなど、周囲に不快感を与えない対策をしよう。

登山マナー4 登山道をふさがない。基本的には登り優先

安全にすれ違えるよう、待つ人は広い場所で山側へ。相手に声もかけよう(加戸昭太郎=写真)

 登山道をふさいで休憩したり、写真を撮ったりするのはマナー違反。また、人数の多いパーティが、期せずして登山道をふさいでいるケースもある。

 後ろから早いペースの登山者が来る場合は、最後尾の人が声をかけ、山側によけたり、落石を起こしにくい・受けにくい所で待ったりするなど、安全な場所で道を譲ろう。ハシゴや鎖場では追い越しせず、譲り合いをし、安全を第一に考えよう。

 登山道は基本的に登り優先である。これは、登りの人は体力的にきつくペースを変えたくない、というのと、下りの人のほうが相手に気づきやすく、すれ違う場所も探しやすいため。

 ただし、登り優先のルールは状況にもよる。登りの人数があまりに連続したら、下りの人はなかなか前へ進めない。そんなときは互いに声かけし、譲り合うことが大切だ。

登山マナー5 登山中は周囲への配慮・注意を怠らない

周りへの配慮は安全登山につながる。両手を使う場所ではストックはザックに取り付ける(加戸昭太郎=写真)

 電車やバス内と同様に、登山中も周囲への配慮・注意を怠らないこと。特に大人数のときは、自分たちだけの世界に入り、周囲のことが見えなくなりがちだ。登山中も周囲の状況を把握し、迷惑にならないよう心がけよう。

 大きな音でラジオを鳴らしながらずっと歩くのもよくない。クマ鈴などの鳴り物は必要な場所以外では鳴らさないこと。

 ヘッドフォンをつけたままで歩くのもマナー違反だ。すれ違いなどの際、声をかけても聞こえず、また、落石の音など、周囲の音が聞こえないので非常に危険だ。

 パッキングやストックの取り扱いにも注意したい。パッキングが不十分で、道具やペットボトルなどが落ちれば事故につながりかねない。

 また、ハシゴや岩場などではストックを収納し、ザックが人に当たらないようにするなど、周りの人へ危害のないように。

登山マナー6 山へのローインパクトを心がける

急斜面の登山道のショートカットをやめるように訴える看板(柄沢啓太=写真)

 登山者はどうしても、人気のある山域に集中してしまう。入山者が増え、自然環境の許容範囲を超えてしまい、山の環境破壊が進行するオーバーユースが懸念されている。環境にできるだけ負荷をかけないよう、山へのローインパクトを心がけよう。

 登山道では、道を外れて歩かないこと。何もないように見えても、夏には高山植物が咲き乱れる場所だったりする。踏み荒らしてしまえば、一度失われた自然を再生するのはむずかしい。

 写真撮影やコースをショートカットするために、立入禁止のロープを越えて踏み入るのもNGだ。

 ストックは石突きにキャップをつけて使用すること。また、ストックは登山道から外れた位置に突かないように。植物が傷んだり、表土が削れ、雨で流されたりして、浸食が進んでしまうからだ。

登山マナー7 植物や石を採取しない。動物にエサを与えない

登山口の前に敷かれた、登山靴の裏についた植物の種子を落とすマット(亀田正人=写真)

 「ドライフラワーにしたいから」「登頂の記念に」と、植物や石などを持ち帰ってはいけない。生態系保全のため、少量であっても持ち帰るのはNGだ。

 また同様の理由で、外来の植物や動物を山に持ち込まないのもルールである。白山では低地性植物のオオバコやスズメノカタビラなどの外来植物の侵入が認められたため、生態系保全のために駆除を行なっている。

 外来植物の種子を山へ持ち込まないよう、帰宅後は登山靴をきれいにし、登山口では、靴裏についた種子を落とすなどの対策をしよう。

 かわいいからと、野生動物にエサを与えるのも禁止だ。人からエサをもらった動物は、エサを自力でとれなくなって死んでしまったり、人へ近づきすぎるようになったりする。食物連鎖にも影響が出るので、エサやりは行なわないように。

登山マナー8 ゴミを捨てない。ゴミは家まで持ち帰る

紙パックを剥がしたり、小袋をひとつにまとめてゴミを減量(永易量行=写真)

 山行中に出たゴミはすべて、家まで持ち帰る。山へ持ち込んだゴミを山小屋のゴミ箱に捨てるのも禁止だ。帰宅途中のコンビニや駅にも捨てないように。

 ゴミは小さく折りたたんで、密閉できる袋へ入れると、かさばらず、液漏れやにおいの心配もない。

 アメの包装紙などの小袋は、風で飛ばされやすい。アメが入ったポケットや袋のファスナーを確実に閉める習慣をつけよう。また、ポケットにはアメと包み紙などのゴミをいっしょに入れず、専用のゴミ袋を用意するなどしよう。

 もともとゴミを山へ持ち込まないことも大事だ。余分な包装を剥がしてしまえば、山行中に出るゴミの量を減らせるし、軽量化にも貢献できて一石二鳥だ。食材も、下ごしらえしてから携行すれば、ゴミが減らせ、調理時間も省ける。

登山マナー9 山のトイレを利用する際の注意点

トイレ前に設置された寄付金箱。「1回100円」と記された徴収箱もある

 山に設置されたトイレにはいろいろな形式のものがある。利用にあたっては、注意書きをよく読み、ルールを守る必要がある。たとえば、使用済みのトイレットペーパーは便器に捨てずにゴミ箱に捨てる、利用後はバケツに汲んである水を便器に流す、などだ。

 利用方法が守られないと、ほかの人が不快な思いをするばかりか、し尿の分解や処理に余計な時間やコストがかかってしまう可能性がある。ルールを守って使用しよう。言うまでもないが、トイレを汚してしまったら自分できれいにすること。

 山小屋のトイレの前には、協力金や利用料という名目で、トイレを使用したときの料金を入れる箱が設置されているところがある。山小屋は特殊な環境下にあり、トイレの設置や維持管理には多大な費用がかかる。たとえ徴収係がいなくとも、利用の際にはきちんと料金を支払うのが義務である。

登山マナー10 山での行動は早発ち・早着きが基本

山小屋やテント場への到着は明るいうちに。明日の準備を早めに済ませよう(柄沢啓太=写真)

 登山中の一日の行動は、下界より2~3時間早く進める。日の出前後に行動し始め、午後の早めに宿泊地へ到着すること。少なくとも日没の2~3時間前には到着し、テント泊であればテントの設営を終え、食事をし、日没後には就寝するというサイクルが基本だ。

 山の天候は変わりやすく、午前中は快晴でも、午後になると夕立や雷雨などになる可能性があり、日中の早い段階で行動を終えるほうが安全性が高いのだ。また、わざわざ遅く出発し、暗くなってからも行動するのは、道迷いの原因や、遭難した際に発見が遅れるなどリスクが高まることも覚えておこう。

 山小屋でもテント泊でも、早発ちする際、まだ寝ている人がいる場合は、大きな声でしゃべったり、ヘッドランプを他人の顔やテントへ向けたりしないように。

登山マナー11 山小屋やテント場のルールを厳守する

狭いテント場では、より多くのテントが張れるよう、お互いに協力しよう(柄沢啓太=写真)

 山小屋やテント場は、下界にある至れり尽くせりのホテルとは違う。各小屋やテント場独自のルールを守ること。

 山小屋では食事の時間や風呂の時間は厳守だ。ひとりだけのわがままは許されない。また個室のある山小屋は少なく、プライベートが保てない状態なので、互いに気を使い、気持ちよく過ごせるようにしよう。

 小屋でもテント場でも、荷物は整理整頓を心がける。間違って人の道具を持っていったり、違う人の靴を履いたりしないように。また、夜遅くまで騒がないこと。特にお酒は飲みすぎないよう、普段の半分程度にとどめたほうがいい。

 同じパーティなのに、ばらばらの場所にテントを設営し、スペースを無駄にするのはよくない。また、テント泊が許された指定地以外でテントを張るのもNGだ。

登山マナー12 水は無駄なく使い、残飯を捨てたりしない

汚水や残飯を流したりせず、あとの人が快適に使えるように気を配ろう(柄沢啓太=写真)

 山小屋の水は、雨水を貯めたり、雪渓からポンプで汲み上げているところなど、量に限りがある場合が多い。蛇口を開けっぱなしにするなど、水を無駄にするのはやめよう。

 水は大切に使うとともに、汚れた水を流さないようにしたい。分解の遅い高所で汚水を流すと、下流域にも影響が出る。

 家庭用の洗剤を使って器を洗ったり、残飯を捨てたりしないように。残飯を捨てれば、野生動物がそれを食べるなど、生態系にも影響が出るのでNGだ。歯磨き粉や化粧落としの洗顔などにも注意しよう。

 食事はすべて食べきり、器についたご飯粒などは、少量のお湯を器に入れ、箸などでこそげ落とし、お湯といっしょに飲んでしまうといい。器がきれいになり、捨てるものは何もない。トイレットペーパーで拭き取ってもいいだろう。

登山マナー13 トイレ以外で大便をしないよう努力を

トイレがあったら、できるかぎりそこで用を済ませておこう(瀧渡尚樹=写真)

 用便、なかでも大便は、一度もよおすと我慢しづらい。とはいえ、できるだけトイレ以外で用便をしなくてすむように心がけよう。

 登山コース中のトイレの場所はあらかじめ確認しておく。登山道に入る直前に、必ずトイレに行ってから出発する。また、登山中にトイレがあったら立ち寄っておく。

 用便が我慢できない場合は、登山道から離れた安全な場所で(見られたくないからと、崖などで行なうのは危険)、土に少し穴を掘って行ない、便を埋める(埋めないと分解されないまま沢へ流れ込む心配がある。あまり穴が深いと分解が遅いので、10㎝程度の深さが適切)。使用した紙は密閉袋に入れて持ち帰る。

 携帯(簡易)トイレを持参することも検討したい。登山専門店やインターネットでも購入可能だ。

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