日本山岳遺産ニュース

第4回 日本山岳遺産サミットを開催し、2013年度の日本山岳遺産認定地および
認定団体を発表しました。

 日本山岳遺産基金では、去る10月23日(水)に「第4回日本山岳遺産サミット」を開催し、2013年度の日本山岳遺産認定地を発表しました。

 第1部では、日本山岳遺産基金の2013年度の活動報告と、本年度の日本山岳遺産認定地を4箇所発表し、認定団体の代表者による活動紹介を行いました。

 第2部では、登山家の田部井淳子さんによる「東北の高校生と日本一の富士山に登って」と題した特別講演を行いました。

2012年度日本山岳遺産認定地・支援団体

認定地 所在地 支援団体
アポイ岳 北海道 アポイ岳ファンクラブ
金華山 宮城県 NPO法人 FIRST ASCENT JAPAN.
船窪岳 長野県・富山県 船窪小屋・道しるべの会
大台ヶ原大杉谷 三重県 公益社団法人大杉谷登山センター


▲登山家・田部井淳子さんを中心に、アドバイザリーボード、認定団体代表者と基金役員

日本山岳遺産認定地と認定団体

本年度は計15団体からの申請がありました。
アドバイザリーボードの助言のもとで、事務局で検討した結果、以下の4箇所となりました。
各認定団体には、本年度中に基金事務局と調整のうえ、助成金を拠出します。


アポイ岳(北海道)


▲アポイ岳(写真=アポイ岳ファンクラブ)



▲高山植物の保護・再生のための活動の様子
(写真=アポイ岳ファンクラブ)

■認定団体:

アポイ岳ファンクラブ

■山の概要:

 アポイ岳(810m)は北海道日高山脈最南部に位置し、低標高ながら、かんらん岩からなるその特殊な地質、気象条件により高山帯の景観が広がる山です。

 生物の種類が豊かで、ヒダカソウやアポイマイマイなどの固有生物、エゾナキウサギなど多くの貴重な生物が生息しています。稜線の高山植物群落と幌満ゴヨウマツの自生地は、国の天然記念物に指定されています。

 また田中澄江著『花の百名山』に選ばれており、5月下旬から10月までの花のシーズンには、多くの登山者が訪れます。

 近年、地球温暖化に伴う気候変動やエゾシカの増加などにより、アポイ岳の植生が大きく変化しています。特にエゾシカの食害は著しく、その対策が急務となっています。

■認定団体:

 アポイ岳ファンクラブは、アポイ岳の自然を次世代に残すことを目的に平成9年に設立された団体です。過去には、登山道整備や高山植物の盗掘防止活動などを行なってきました。

 近年は、北海道や研究機関などで構成されるアポイ岳再生委員会の主要団体として、高山植物の保護・再生のための活動などを中心に取り組んでいます。 今後、アポイ岳の高山植物再生のためのモニタリング調査、及び地元の小中学生に高山植物を育ててアポイ岳に植栽してもらう活動を計画しています。

■認定理由:

 希少植物の保護に16年間取り組んできた実績と、次世代を担う地元の小中学生とともに高山植物の再生に取り組む点を評価し、日本山岳遺産に認定しました。

 


金華山(宮城県)


      ▲金華山(写真=NPO法人 FIRST ASCENT JAPAN.)



▲災害復旧活動の様子(写真=NPO法人 FIRST ASCENT JAPAN.)

■認定団体:

特定非営利活動法人 FIRST ASCENT JAPAN.

■山の概要:

 金華山(445m)は牡鹿半島の先端から700mの海峡で隔てられた東西3.5㎞、南北5㎞の小島です。花崗岩からなる島そのものが山で、金華山黄金神社の神地として歴史的に保護されてきたため、数年前までは、全島が鬱蒼とした原生林に覆われていました。

 しかし近年、シカの食害やマツ枯れにより裸地化が進んでおり、さらに東日本大震災では震源に最も近く、甚大な被害を受けました。現在も震災の被害状況が把握しきれておらず、その後の豪雨などでも山が崩れ、復旧が手つかずです。

■認定団体:

 「特定非営利活動法人 FIRST ASCENT JAPAN.」は、2013年2月に東日本大震災から復興が進まぬ現状を改善しようと、仙台のクライマーが中心になって設立した団体です。

 金華山での災害復旧ボランティアやボルダリングによる新しい観光資源の提案、クライミング体験会などを通して、震災復興や地域活性化、スポーツ振興活動に取り組んでいます。

 今後、金華山の登山道被害状況の確認や、女川の小学生とともに金華山登山と環境保全学習を行なう予定です。

■認定理由:

歴史ある島の山で行なう地元小学生との交流登山で、次世代育成に寄与する活動である点、活動している方々が若いクライマーで震災を機に活動を起こしている点を評価し、日本山岳遺産に認定しました。島に何度も通い復旧作業をするために必要な資金を援助し、活動を支援します。

 


船窪岳(長野県・富山県)


▲船窪岳(写真=船窪小屋・道しるべの会)



      ▲登山道整備の様子(写真=船窪小屋・道しるべの会)

■認定団体:

船窪小屋・道しるべの会

■山の概要:

 船窪岳(2341m)は北アルプス後立山連峰南端の蓮華岳と烏帽子岳を結ぶ山域にあります。

 登山コースはガレ場や崩壊地などの難所があり、山慣れた人向きですが、コマクサの大群落もあり、草原に湖沼が広がる美しい景観や槍・穂高連峰の眺望が楽しめるなど、北アルプスのなかでも貴重なエリアといえます。

 北アルプスの中ではマイナーなエリアですが、針の木越えで知られる針の木谷など、谷の深さを実感できる山域です。

 2011年の東日本大震災の余震と考えられる地震で登山道が大きく崩れ、安全上の問題になっています。

■認定団体:

 「船窪小屋・道しるべの会」は、歴史ある針の木古道維持のために、2009年に設立された団体です。近年では、船窪小屋を拠点にして、周辺の登山道の整備に汗を流しています。

■認定理由:

 北アルプスのメジャー山域に隠れたエリアで、整備が必要にも関わらず、行政による整備もなかなか手がまわらない状況にあります。

 また、船窪小屋は経営基盤の小さな小屋で、小屋が周辺の登山道すべてを維持することも不可能です。そのため、道しるべの会のような支援者が自主的に手弁当で整備しているのが現状です。

 日本山岳遺産基金では地道な整備活動を支援し、安全登山に寄与する目的で、日本山岳遺産に認定しました。

 


大台ヶ原大杉谷(三重県)


▲大杉谷(写真=公益社団法人大杉谷登山センター)



▲登山道整備の様子(写真=公益社団法人大杉谷登山センター)

■認定団体:

公益社団法人大杉谷登山センター

■山の概要:

 吉野熊野国立公園に指定された大台ヶ原は、三重県と奈良県の県境に位置する国内に残された数少ない秘境のひとつです。最高峰である日出ヶ岳(1695m)を中心とした大台ヶ原山は、日本百名山にも選ばれています。この大台ヶ原を源流とする宮川の上流域が大杉谷です。

 年間降水量が3500mmを超える国内有数の多雨地域で、険しい渓谷の中に大小合わせて100以上の滝があり、日本三大溪谷のひとつにもなっています。

 およそ1400mの標高差の中に、多種多様な植物が見られ、ニホンカモシカやオオダイガハラサンショウウオなど貴重な生物も多数確認されています。

 大杉谷から大台ヶ原を結ぶ登山道は、2004年の豪雨による崩落によって通行不能となっていましたが、2014年、10年ぶりに全線復旧の予定です。

■認定団体:

 「公益社団法人大杉谷登山センター」は1982年に自然保護や登山情報の提供、安全登山の啓発、山岳遭難者の救助活動に対する協力を目的に、三重県、旧宮川村などが中心となって設立した団体です。

 大杉谷登山道は、アップダウンが激しく急峻な断崖があり、毎年数件の滑落事故が発生していました。同センターでは、過去の事故例を整理するとともに、一般登山者や関係者からの聞き取り調査、現地踏査などを行ない、安全登山啓発の資料を作成する計画を立てています。

■認定理由:

 90年代には15人もの遭難死亡事故が起こった登山道で、外部識者による危険箇所の調査、安全に歩くための地図やパンフレット配布等での情報発信が必要となっています。復旧の機会に、実踏調査を支援することによって、安全な登山ができる大杉谷になるよう支援したく、日本山岳遺産に認定しました。

 

特別講演には登山家の田部井淳子さんが登壇


▲特別講演で登壇した田部井淳子さん

 第2部では、登山家の田部井淳子さんをお招きし、「東北の高校生と日本一の富士山に登って」と題した特別講演を行いました。

 福島県出身の田部井さんは、震災や原発事故からの復興に時間を要するなか、未来ある東北の高校生に、日本一の富士山に登ることで、前に進む「元気」と「勇気」を得てもらいたいと、「東北の高校生の富士登山」プロジェクトを発足しました。山と溪谷社および日本山岳遺産基金では、田部井さんの強い思いに共感し、2013年より、田部井さんとともにこのプロジェクトを共催しています。

 田部井さんは「一歩はたったの40~50センチだけど、その地道な一歩一歩を積み重ねることで日本一の富士山に登ることができた。心と体で経験することが自信につながる。」と語りました。